君が望む永遠・茜シナリオ所見

MACHINA EX DEO

涼宮 茜(すずみや あかね)

茜シナリオ

これを書くまで随分と時間が掛かってしまいました。
というのも、数回通して茜シナリオを読み込むまで、茜の行動に納得がいかなかったからなのですが。いわゆる「御三家」である遙、水月、茜の3者シナリオ中、もっとも分かりづらいシナリオになっている気がします。

全登場人物中もっとも強力な破壊力を持つとも言われ、一部では単に「茜」と言った場合の指す人物が変わったとすら言われる「茜萌え」を大量に生み出したキャラでありながら、そのシナリオは「わーい茜さんだふふん♪」では済まされない重さを持っているようです。

では、シナリオレビューです。
過去に書いた「茜は本当に彼が好きだったのか?」を統合しました。

遙も長文になったと思ったのですが、茜はそれを凌ぐ量になってしまいました(^^;;
 #ご多分に漏れず、書きかけのSSのネタブラウズを兼ねたからなんですが
お暇であればお付き合いください。



涼宮茜
茜さん、可愛いです。いやホントに。

2章での茜の笑顔は、まさに「幸せな日々の象徴」として描かれています。3年の時間を持たない遙は別格として、孝之、水月、慎二の誰からも、無防備に笑っていた日々の姿、何かを目指していた姿はあまり感じられません(慎二は出番が少ないだけで前向きなんですが)。せいぜい水月の「ぶっとばすわよっ」ぐらいのものでしょう。それですら「久しぶりに聞いた」と、否定的なニュアンスで登場していますから。(→あゆシナリオ所見)

茜の笑顔を取り戻すこと。
あの日の写真の4人から一歩離れていながら、その笑顔が実は全員の幸せにつながっている辺りが、彼女の凄いところですね。

嗚呼。神慮の機械は茜さんの幸せを応援しています。



さて、茜シナリオは8月10日・大会翌日まで、遙シナリオとほぼ重なる形で進行します。
茜に関わらずに遙シナリオを進めることもできますが、単に効率の問題だけでなく、遙エンドでの幸せのためには、茜と打ち解けておく方が自然と言えます。(実際に「ドラマシアターvol.1」では、茜看病イベント等が含まれていますし。)

つまりここまでは、姉の心配をし、水月に逃げた孝之を非難する茜に、孝之の遙に対する想いを少しずつ感じさせていく過程ですね。そのことで茜と孝之は、かつての「共に遙を心配している」間柄に戻っていくわけです。

茜の笑顔を、遙への想いを深めることか、茜自身の心を救うかで実現する。

このまま孝之の心が遙に傾ききっていくのが遙シナリオなんですが……
逆に遙への想いが中途半端、でも水月に傾くほどでないが故生まれたのが茜シナリオと言えるでしょう。

ただ、茜シナリオの方では、茜が孝之に惚れた理由がいまいち明確ではありません。
遙の前で水月のこと、3年経ったことをぶちまけた後、海岸での台詞「私がしたのは鳴海さんを好きになっただけ」は意外でした。正直言って、果たして本当に茜が孝之に惚れていたのか疑問にすら感じました。これが、何度も茜シナリオを読み込みなおす理由になったのですが……

▼以下長い&想像個所なので次段落まで飛ばすときはここを。

茜の恋心

なんとなく感じるんですが、茜さん、勘違いしてたんじゃないですかね。

……というと身も蓋もないんですが、恋愛自体勘違いみたいなものですから(ぉぃ)、始まるきっかけが別に勘違いであっても何の問題もないと思います。それを踏まえた上で。

3年前の茜が好きだったのは、幸せそうな姉さんと孝之を見ていること。これは間違いないと思います。その時から恋心を我慢していた……というのは少々勘繰りすぎじゃないでしょうか。

茜にとって孝之は初めて接する「女性と付き合っている男性」であり、大好きな姉がベタ惚れな男であり、また水月の大会中傷イベントを通じて、例え年下の女の子相手でも真剣に話をしてくれる人でもあるとわかります。

孝之を「好き」だったことは間違いありませんが、茜自身「あまりこういうことに慣れてないから」と言っているように、実際この時の彼女の心理は恋と呼ぶには淡い純粋な憧れであり、また幸せそうな2人を見ていたいという想いなんじゃないでしょうか。

事故直後から壊れていく孝之を励ます茜の姿は、姉さんの手前言えなかった想いを持つ少女というよりは、やはり純粋に「あんなに姉と楽しそうにしていた、大好きなお兄ちゃんが壊れてしまう」という想いから来た行動に見えます。必死で孝之を励まして、いつか遙が目覚めて、あの幸せな時間が戻ってくることを信じて。

遙や孝之、水月、慎二が願っていたように、茜もまた「あの3人の幸せな時間」を取り戻したいと願い続けていた……とすれば、茜には「姉の代わりに自分が」という発想は生まれ得ません。



この後、何処で茜は「それが恋心」だと勘違い認識するのでしょうか。

これは一般論ですが、何かきっかけとなるイベントが発生して「この人を好きだ」と認識すると、それまで「いい感じの人」と認識していた時間まで、「私はこの人を好きだった」と思ってしまう傾向があります。まぁそれぐらい恋愛感情って曖昧なものですからそれは良いとして。

の場合、茜シナリオや水月シナリオを見ている限り、「水月と孝之がいるところを見たとき」に「きっかけ」が発生したようです。遙と、孝之と、茜との幸せを描き続けてきたのに、こんな時に水月が想いを叶えてしまった──

「遙と孝之の時間」のために、立ち直って欲しいと思っていた孝之を救ったのが、自分以外の水月だったということ。自分や遙抜きで幸せを作られ、忘れられてしまうくらいなら。同じく落ちぶれて行った水月にだってできたくらいなら。

「どうして黙って見ていたんだろう!」

私がそうすれば良かった。だって私だって鳴海さんを好きだったんだし
(きっかけ&過去に遡及する想い)

……と、ひとたびそう思い始めれば、後はどんどんと深みにはまって行く一方に。姉の手前、自分はそうするわけには行かなかったのに、卑怯だと水月を憎むのも、自分が孝之を好きだと認識してからのことでしょう。同時に、孝之を好きなのに姉が目覚めることを願っていた矛盾を「裏切り」だと誤解する。本当はそんなことはなかったのに、どんどんと自分を追い詰めていってしまう。

まっすぐな茜だからこそ、なんですが。

で、取った行為は「水泳と看病」。
孝之を自分と姉から奪った水月への復讐。こっちは純粋に憎しみだと思います。
そして看病は、自分が決して孝之一人のために姉を見てきたのではない、と自他共に思い込ませるための手段。「気づいた」自分の想いを封印するための手段……

贔屓目に過ぎるかもしれませんが、可哀想だよ茜さん。うぐぅ。

結果として取った行動は前向きなのに、心は完全に後ろ向き。
あの笑顔を失ってしまった茜。それが、2章の冒頭で登場する茜なのでしょう。

嗚呼。神慮の機械は茜さんの幸せを応援しています。
 

茜エンドの幸せ

ふぅ、ようやく茜シナリオに戻ってきます。

遙覚醒後、再会した茜と孝之。
あの日叩きつけられた茜の感情。そこに、奇妙な恋愛感情や複雑な思いはなく、純粋に「好きだったのに裏切られた」人への積もり積もった恨みであり、憎しみだと私は思っています。その方が茜らしい。

それが、8月10日まで彼と会う時間が増え、特に一連の風邪イベントを通じ、彼が遙のことを忘れ去ったのではないことを思い知らされ、憎しみが和らいでいく。

その上で、遙に想いを寄せ続ける孝之を認めれば、遙エンドに。
(故に、一連の風邪イベントがないと、遙エンドでの茜との和解が不自然に見えてしまう)
ところが当の孝之が遙に寄せる思いが半端だと、茜エンドになるんですね。



しかし結局のところ、茜エンドに到達した孝之と茜は幸せなんでしょうか……?

家族にまで浸透していた遙と孝之でしたし、ましてやあの事故で深い付き合いになっていた孝之と涼宮家。遙のみならずご両親も複雑な思いでしょう。父親として、2人の娘の幸せを天秤に掛けるなんて耐えがたい行為のはずです。ここで茜との付き合いを認めてしまえば、ただでさえ3年の疎外感を感じている遙は家庭内で孤立してしまいます。かといって、茜との付き合いを見ぬ振りをする(ある意味普通の家庭ですね)のであれば、逆に茜が家族内で孤立する。

遙は持ち前の強さで「帰ろう」と言ってくれていますが、それでも自然な姉妹の会話を期待するのは無理というものです。水月と違い、会わないという選択肢はありませんし。

結局は遙の強さに賭けて、少しずつ家庭内でも茜との関係を認めていく……長く辛い日々が続くのでしょう。茜にとっては、それでも離せない孝之でしょうけれど、遙隠し妻エンドの時ほど遙が応援してくれるわけでもないでしょうし……無邪気に「だって幸せなんだもん」と言える日々は、すぐには来ないでしょうね。

……今、あるいは健康になった遙が孝之奪還戦を戦い抜くというSSネタが浮かんだのですが……封印しておきましょう(^^;; でも、自分の想いを貫く強さを持つ遙なら、ハンディが無くなったら再勝負に賭けてくる可能性は十分あると思います。水月シナリオ後と違い、孝之は近くに居続けるのですから。
この段階であれば、遙の体調のおかげで暗く鬱になった本編のような話ではなく、割とまっとうな恋愛劇が展開されるのかもしれません♪

閑話休題。
そんな100%の幸せを予感するのが難しい茜エンドですが、意外にもこのエンドの救いは孝之にあるんじゃないでしょうか。
 

茜と孝之

優柔不断と悪名高きヘタレ孝之君。
私は彼を、3年間に受けた傷のおかげで、優しさを裏切ることに臆病になりすぎているのだと一応弁護しておりますが。

ところが茜シナリオの孝之は、他の遙、水月シナリオやサブキャラシナリオに比べ、結構まともな決断力を行使しているように見えます。(孝之は「ゲームトークン」であり、その性格はシナリオ毎に異なる……という如星の意見を踏まえて。)

まず08/03、茜が買おうとした花束に金を出す孝之。
恨まれるのは仕方ないが、これも遙への想いだと言わんばかりに、行動によって意思表示してます。ただの偽善にも見えますが、一度花をすり替えられた後での行動ですから、評価して良いと思います。

これで応援に来て良いと言われ、一連の風邪看病イベントが進行できるようになります。
この時の寝ている茜を見て昔を思い出したのか、彼は「3年前の頃の方がまっすぐだった分、今はあの悲しみがより辛い」と、今の自分を認識する考えにこの時点で到達しているのです。ううむどうした孝之、お前らしくもない(^^;;

そして、風邪をぶり返した茜を送っていく時の、電車内での彼の台詞。
「この上携帯鳴らしてみろ? ぶっ飛ばすぞ」
……孝之のこの手の怒りが炸裂したの、実は3年前の水月を馬鹿にされた時以来なんじゃないでしょうか? 隣にいるヒトを本気で守り、手を出すものに牙を剥き出す、「かつての」とは言い過ぎですが、孝之の本質的な良さ。3年前の水月のときも同じで、付き合ってもいない相手に掛ける配慮。ううむ孝之。

茜が孝之の想いを信じられるようになり、かつて気づいた想いが戻ってくる。
そのまま孝之の心が遙に振り切ってくれれば、またかつての場所に戻れる。その方向であれば、茜も心に酷い無理を強いらずに、孝之への想いを散らす事ができたはずです。それは望み続けた幸せであり、これが実際遙エンドの方が茜が幸せかもと思う所以です。

ところが孝之、そんな想いのこもった花束を水月に渡させてしまう。
どうも水月のことが出てくると、元の優柔不断さが戻る傾向にありますね、彼。

これは決して許したわけではない水月(だって茜は想いを諦めようとしてるんですから)に、自分の想いが踏みにじられたと感じても無理はありません。そして孝之の心が今でも(どれくらいかはいざ知らず)水月に向いていることへの嫉妬。こんな状況を作ってしまった何も知らない姉への苛立ち。そして大爆発。

ところがところが。
この一件以来、孝之本来の「守るぜ本能」とでもいうべきものが覚醒するのか、他シナリオよりもよっぽど素直に自分自身の感情を見つめていきます。

「遙を見てぐらついた」と水月に告げたり。水月に押し倒されかけても拒んだり。
姉に直接告げるような茜の決心を見てれば、優柔不断にもなっていられないのでしょうね。

前を見ようとしている遙を認識し、痛みがあっても進もうとしている茜を認識し、水月が水泳やめた理由に自ら気づき。このシナリオで、水月と遙、双方に応えられないことを、ほぼ同時に自ら認識して、行動に移してるんです。あの孝之が。ううむ。

唯一、イルカのカップを部屋に残さなかったシナリオ。
自分1人で行くと決めて、向こうから言い出されるのを待たずに遙に別れを告げ。

泣きながらも「この手に残ったたった一つのぬくもり」、茜のところへ行く孝之。

茜シナリオで本当に茜が幸せになれるか不安だと書きましたが、少なくともこのシナリオの孝之は、茜と付き合うことがどういうことか、しっかりと認識した上で自分で道を選んでるんです。「この」孝之なら、その先の茜を支えてやれるんじゃないか……と、希望をもつことができるんじゃないでしょうか。



実は孝之を庇えるぐらい強い遙と、優しさの孝之が結ばれる遙エンド
弱い者同士、実は逃げ回ってばかりの孝之と水月で終わる水月エンド主観入ってるな〜(^^;;

そして、実は孝之が「支えてやる」という彼本来のスタンスに戻れる茜エンド

孝之のギリギリの決断を試すかのように、誘惑の選択肢が多いのもこのシナリオの特徴ですね。それらをすべて振り切れた彼なら、よろしい、茜さんとその幸せを、守ってやってくださいな。そう見送ることができる、味わい深いシナリオでした。

茜さんの未来に祝福あれ。

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