紫色にけむる夕闇のころ、空に小さな星が光り
「見て見て孝之くんっ! 本当に降ってきたよっ!」
永遠に心に残る詩を詠いながら、あなたは小道をさまよい歩く
君が望む永遠サイドストーリー
if series 02
星の降る夜に・Another
夜空を最初の光芒が薙いでゆく。
始まったか……と思う間もなく、次々と東の空から星が降ってくる。
無慈悲な冷たい宇宙の色の中で、舞い翔ぶ雪のように。
これはちっぽけな願いを叶えてくれる星降る夜なのか。
それとも、人が空を飛ぶことを戒める無慈悲な夜なのか。
俺達の恋が始まったばかりの
キスするたびにときめいてたあの頃のように
満天の星、という形容詞では物足りない。これこそが、星降る夜。
事故の前、遙が俺と一緒に見たかったという、獅子座流星群。……そして3年の時が流れ。あれから全ての時間を堪えていたように、東の空から星が降り注ぐ。
……でも俺は、星が願いを叶えるのではないことを、もう知ってしまっている。
彼女が星を指差し、手を振って俺を呼んでいる。
そこに見えるのは、君の笑顔だけ。
満天の星の下、庭の壁際にいて、君は俺の腕の中
ナイチンゲールはおとぎ話を歌う
バラの咲き乱れる楽園の詩を
遙が夢から覚めた夏。
そこには、苦い記憶、辛かった思い、泣いた日々があったのに。
今そこに見えるのは、君の、笑顔だけ。
ああ、でも……そうだな。
『あっ、寝ちゃっててもいいんだよ……。私ね、孝之くんの寝顔を見ているだけでも幸せだから……』
『あ、わかるわかる。遙の寝顔も可愛いもんな〜』
『えっ!?』
思い出せるのは、あの冷たい寝顔じゃない。
優しく微笑む、笑って手を取り合えた、あの遙。
そうだ、遙とずっと……永遠に歩んでいきたいと思ったのは、そう、3年前初めて遙を抱きしめた時だった。3年前……俺はそれを想像して幸せだと思った。
10年後、20年後も、こうして肩を並べて、幾度となく夜空を見上げていけると思っていた。そんな星降る夜を、夢見ていたんだ。
『ミートパイね、また上手にできたのっ! これでもう偶然じゃないよねっ!』
『はは……偶然なんて俺言ってないぞ。あの冗談本気にしたのか?』
『うう〜、冗談だったの? ひどいよぉ……で、でも孝之くんが食べてくれるなら……いいかな……』
そう、手に手を取り合って。ずっと歩いていけることを信じて。
そして遙は……言ったな。
夜空に星が瞬くように……溶けた心は離れない、と。
時々夢に詩がよみがえり、そして俺は不思議に思う
例えこの手が離れても、ふたりがそれを忘れぬ限り……
どうして夜がこんなにも寂しいのかと
何故あの時、俺は全ての時間を、遙に伝えなかったんだろう。
遙の強さに対して時が許した、あの魔法のような時間の中で……遙のぬくもりに、どうして身体を浸してしまわなかったのだろう?
どうしてそれを、忘れてしまったんだろう……!
「……孝之くんっ!」
耳にこだまする遙の呼び声。
3年と言う時間の最後に。神が許した、ほんの僅かな想い出。
残酷ではあっても、俺に全てを思い出させた、夏。
手を振る遙も、遙の笑顔も、星空の向こうに掻き消え。
肌寒さに俺は思う。長い夏も、終わってしまったのだと。
誰もいない山の上に、ただ1人立ちつくす。
俺の身体めがけて無慈悲に降り注ぐ、一面の星。
これからも俺は、この記憶を思い出していくのだろう。
星降る夜に、空を見上げるたびに。
星に掛けた願いを、そこに託した2人の想いを。
もう、全てが失われたと分かっていても。
たとえ遙が、この星空の彼方に離れていても。
今は虚しき夢、心に刻まれし永遠
星屑のメロディー、恋の調べの記憶
永遠を、永遠に。
俺は、思い出すのだろう。