VERBA VOLANT, SCRIPTA MANENT.
料理通信、という雑誌が面白い。
店の紹介だけでもレシピ集だけでもない、「食うこと」を趣味にしている人のための雑誌である。食材の扱い方を特集して見せたかと思えば、非常に狭いジャンルの店ばかりを紹介してみたり、またあるときは「食い方」のコンセプト自体を特集して見せたりと、視点が毎号毎号くるくる変わるのが特徴だ。
食うこと自体を楽しむ!という傾向としては、「dancyu」辺りに少し近い。ただ、dancyuがどちらかと言えば「自宅で作る」が主役なのに対し、料理通信はもう少し作り手寄りで、食材から店のコンセプトに至るまで、本質論に切り込んで語ることが多い。時にレシピが載っていても、モノによっては本職でなければ到底できない代物がさらっと載っていたりね(先月号のレシピには「糖度計」なんてアイテムが登場してたし……)。
そう、この雑誌は「作り手」つまり飲食店側の人間、それも実際に手を動かすシェフやサービススタッフをかなり意識しているようだ。食材のトレンドや店舗紹介も何処か「事例紹介」のような匂いが漂っているのだが、なかなかどうして、我々素人が読んでも、店の「意図」を読み解く参考になったりして楽しいのである。
また時には資金面まで含めた出店計画の事例紹介や、店内の運用に関する話なども載っており、単に飲食店のノウハウというだけでなく、一つのプロジェクト、一つの組織に対する仕事のやり方が透けて見えてくるのが実に面白い。教条主義的なマネジメントの話ではなく、趣味である飲食を通じ、しかも即座に客の反応が分かる飲食店というモデルで語られる話は、そりゃあ胃の腑への落ち方が違うってモノである:)
折りしも不況の風が吹きすさび、飲食業界だって撤退・倒産情報ばっか飛び込んでくるような昨今、しかし例えば今宵我らが酒を楽しんだ「ビストロ・ヌガ」は小さい箱ながら予約の電話がひっきりなし、今日だってカウンターの端がかろうじて開いていただけでの満席状態である。旨い。そして心地よい。この実にシンプルな「いい店の条件」をキッチリとクリアしていく重要さを、ヌガのような店は身をもって分からせてくれる。
今月の特集が「小さくて強い店をどう作る」という、まさにヌガのような店を主に扱った記事であり、料理通信未体験の方には「こんな食い物雑誌があったのか」とちょうどいいサンプルになっている。人を楽しませるにはどうすれば良いか、そこで自分を楽しませるにはどうすれば良いか、それを持続的に運用するにはどうすれば良いか──無理に仕事とは言わずとも、例えば同人活動や創作活動だって、考えようによっては飲食店と似たようなものである。「作り手であり運営者」であるという立ち位置は非常に参考になるので、食い物にも興味のある方は是非一度お試しあれ。……いや普通に旨いものスキーが読んで楽しい雑誌なんだけどね。
ちなみに似た名前の「料理王国」とは全然違う雑誌です。あっちはどーも、いわゆる普通の人が思い描く「グルメ」というか、妙に日経おとなのOFF(別名中年向け不倫雑誌。ぐぐればわかる)ライクでスノビッシュというか……。好きになれない世界ですわ。お間違え無きよう。
ちなみにその「ヌガ」は、銀座にある小さなビストロ。「Club NYX」がテナントビル取り壊しで銀座から去って以来、気楽にフレンチメシと酒がやれる店を探してたのだけど、ここはまさにその目的に合致する大当たりの店だった。
厚切りベーコンや豚パテ、サラミをワシワシ食いながらリースリングを呑み、野菜のストウブ煮込みとクスクスで腹を満たし、そして蒸留酒を飲みながら幸せにデザート。俺は柿のクラフティを食いつつ、オスピスのマールを堪能。最近グラッパはあまり熟成させないフレッシュな葡萄の香り漂うものが好みなんだけど、山一つ超えたフランスのマールはやっぱりブランデーのお土地柄か、樽でキッチリ熟成させたモノの方が旨いようだ。
一方同行したぶどう氏は、ラム酒たっぷりのババという「酒を使った菓子に酒を合わせる」という難題に対し、店の方が合わせてくれたのはなんとグランマニエ。これがまた並みのグランマニエでなく、芳醇な甘さが確かにラムのカウンターになってくれている。「単体で飲んで旨くないリキュールで旨いカクテルが作れるはずが無い」
とは俺を育ててくれた横浜のバーテンさんの名台詞だけど、それを地で行く「旨い酒としてのリキュール」であった。
酒に限らずもちろん料理も、ビストロの楽しさってモノを選ぶときの店員とのインタラクションにあると思う。肉類に定番の赤ではなく、普段デザートワインだと思っていた白のリースリングを合わせてきたり、ババにグランマニエをぶつけるなど、酒の薦めがワイン以外でもバーテンなみに面白いので(俺は蒸留酒でないと速攻酔ってしまう体質なので特に……)、バー好きの如星にも嬉しい。まだ今回で2回目の利用なんだけど、これはホントに良い店を見つけたモンである。
ちなみに銀座界隈で飲んだ後は、毎度のように有楽町駅裏のカフェ・コヴァまで散歩し、バンコでエスプレッソを。相変わらず雑味の無い、まるでチョコレートのように滑らかで濃いカッフェだ。ここは座るとお高い店だけど、都内でも三本の指に入る(と思ってる)エスプレッソをキュッとやってくなら立ち飲みで十分。ちゃんとイタリアのバールと同じく、バンコ料金で安くなるしね:)
最近は心の端に引っ掛かった思考を溜めずにtwitter界隈に流してしまっているからか、なかなか日記を書こうという気がおきません。というより、日記エントリにしてまで書きたいと思うことが出てこないわけで、それは取りも直さず「書こうと思えるような事を、していないから」に他ならんのでしょう。
如星の主な日記ネタは「コンテンツの感想・考察」と「飲食ネタ」なわけですが、飲食ネタについては、実は「飲食に興味の無い人にもそれなりに読み物になる」と判断したネタしか書いていません。大体食ったものを偉そうにレビューできるほど良い舌は持ち合わせてないので、どちらかといえば「こういう良い時間が過ごせて、その要素を分解するとこうだよ」という方向でモノを書くわけですが、そういうシチュエーションって旨い物自体の種類ほどにはバリエーションがあるわけじゃないんですね。自然、エントリ数はあまり増えないのです。
一方のコンテンツ感想ですが、こちらはそもそもコンテンツを摂取しないと書けない代物。しかし最近、ホントに摂取量が減っていてヤバいのです。ついったの知り合いなどに勧められて古い作品に手を出したりもしてるんですけどね……。
大体最近書こうと思ってた記事なんだっけ?と思い起こすと「シェリルが如何にいい女か主張する」……3ヶ月前の話かよ! まぁ今なお彼女にはハマり続けていて、最近はPC環境を大改築してBD再生環境を手に入れたりしましたがね、あの桃色髪の御為に。
あとは今年の頭にh君に「人生を損失している」とまで言われて勧められた「昴」とか。……確かにこれは「未読は人生の損失」と言い切れる凄い作品でしたが、何というか、下手に分析とか論評とかすらしたくない作品なのが困りモノ。如星としては非常に珍しいケースなのですけど、再読すら、初読の余韻を汚しそうで怖いという類の作品なのです。それほどまでに、コミックス10巻分を一気読みしたときの、脳髄の痺れる様な疾走感はたまらないモノがあったのですが。
古い作品といえば、N氏に佐藤大輔御大の名作「レッドサン・ブラッククロス(RSBC)」をまとめ借りし、これまた一気に読み進んでますね。いやー、脂の乗り切った時代の御大作品という呼び名は伊達ではなく、これまた半端ない面白さ。仮想世界の構築は斯くあるべし、漢小説とは斯くあるべしというお手本のような代物です。読み終えるまで今しばらく、未完の苦しみを味わわずにすみますし!(訳注:RSBCも「放置されて久しい」作品の一つであるようです……)
ちなみに、昨今「萌えたい」とか呟いてしまう末期症状的如星、「身を捩るような恋がしたい」が口癖の終末的存在如星、今目を向けているのはなぜか「とらドラ」だったり。アニメで一気に追ってみようかしら。