VERBA VOLANT, SCRIPTA MANENT.
同人ゲーム。ギャルゲー自体久しく遠ざかっており、ましてや同人のそれを手にすること自体初に等しいぐらいの存在だけど、この辺りから興味を持ってしまったのが運の尽き、しばしの寝不足を味わっている。……ええそうですよ、ここ2年ぐらい何を勧められても1周終えられなかったこの男が。
シンフォニック=レインの時にも感じたことだけど、これは別に種明かしを楽しむ物語ではない。新展開の開陳は、まぁ、ちょっとしたスパイスみたいなものだ。もちろん、シナリオ、いや精巧すぎる寄木細工のような構成が神域に達したSRの「展開」は、スパイスを超えてそれ自体が物語と成ったモノではあったけど。それでも本質は変わらない「人と人」の物語であったし、嘘と本当の物語であった。
とりあえずの暫定解。ファンタジーとSFなんて違いは些細なものだ。
たとえ未だ幼かろうと、「ひまわり」は「シンフォニック=レイン」の系譜の者である。
引き続き「ひまわり」プレイ中。他の皆様のようにアクアアクアと叫びだしてもいいところだが(心底真実そうしたいが)、このアリエスも只者ではない。アリエスに仕込まれた「嘘」が、都合よく/当然意図して「信念」を隠す役割を果たしているなんて。
というかだな、
──hollow/ataraxia死者には何も叶えられない。いつだって事を起こすのは生きた息吹だ。
たとえ死者として再び生を受けたとしても、死んだものが死んだものを起こす事は絶対に出来ない。
一番初めに聞かされたじゃないか。
いつだって、奇跡を呼び起こすのは、生者だけの役割だって。
……この台詞がこれほど真に迫ってくる二人(アクアとアリエス)もいないよなぁ。死者として再び生を受け、死者を呼び覚まそうとした少女。物語に奇跡を呼び起こすのが生者であり続けようとした方の少女であったとしても、そもそも事の起こりから「死者」であった二人を、誰が責められよう。ましてや「相手」は、死者であり生者であった者なのだから。
──面白くなってきました。噂によると4周目はある種のエピローグらしいので、物語としてはあと一息。面白くなってきたのは、創作心の刺激という久しぶりの方向で。
昨晩はぶどうさんに誘われて、最近身内で噂のブラスリーベック@代々木上原に行ってきた。気軽にフレンチ系の旨い物が食える店というのが一つ、だがそれ以上に、併設されているパン屋(アトリエベック)が気になってたのが大きい。相方が先日ここで某オフ会を開いた際に買ってきてもらった「蜂蜜入りの食パン」がまぁ旨いの何の。どっしりと重く密度が詰まっていながらふんわり柔らか、そして濃い粉の味わい。これがポワンエリーニュばりに高ければある意味普通なんだけど、価格帯は全然市井のパン屋なのだから驚き。
これだけのパンを「食事への期待を高めるプレリュード」に使える店ならば、そりゃあ本編にも期待が掛かるってもの。残念ながら食事前に立ち寄ったアトリエ側では件のパンは売り切れだったのだが、実際カウンターに座ってからパンと豚のレバーペーストで一杯やり始めると、まぁやはりパンがどれも旨い旨い──パンとシェリーだけでこれだけ楽しめてしまうとは思わなかった。
予想&期待通り、食事の方も上々。「冷製鴨のパテのパイ包み」辺りからスタートを切ったのだけど、冷やされて鴨の脂がパイ生地にしっとり染みた歯ざわりが何とも言えず良い。穴子とレンズ豆のテリーヌや大根のポタージュなど、野菜もきっちりと味わい深い。そしてぶどうさんと同じ写真を思わず撮ってしまった自分に笑ってしまうのだが、氏の日記を読んで惹かれまくっていたフォアグラを堪能。茄子と共にソテーされた濃厚なフォアグラは「切なくなる味」とでも言いたくなるような旨さである。なんつーか、嫌な脂の感じが全然ないのよねぇ……。
今回のちょっとした反省点は、野菜メインの皿をあまり頼まなかったことかも。メインももっと普通の肉にすると、どっさり付け合せの野菜がついてきた模様。目の前で焼かれていく野菜たちは実に旨そうで、今度はこれらをガンガン堪能しようと思う。
ちなみにこの店、カウンターが数席と普通のテーブル席に分かれてるんだけど、旨い物好きは一度是非カウンターをお試しあれ。上で「目の前で焼かれていく」と書いたように、実質一人(+アシスト)で切り回しているキッチンを目の当たりに出来る。3つのガス台とヒートトップ(業務用のホットプレートみたいな熱作業台)の上で踊り狂う20近くのフライパン。一体何スレッド同時進行してるか分からない火入れの最中に、同時に肉に塩を振り、パスタを引き上げ、そしてカウンターの客と談笑するのである!(流石に忙しさ最高潮の時はわき目も振らずになるし、こっちも声なんて掛けられない気迫になるけど) まさに職人芸。神業である。こういうのを楽しむのもまた、旨い物好きの血だと思うのだ。
ワインを飲みだすとその限りではないけど、軽く食えば一人5kぐらいで十分収まります。金夜は流石に込み合うようで、予約は入れておいたほうが無難の模様。正直代々木上原って台東区民からすると東京の反対側で若干億劫ではあるのだけど(どんだけものぐさになったんだ……)、それを押してなお訪れる価値ありです。お勧め。
(注:これはメモです。絶対レビュー書くぞ、これは)……さて、最後にちょっと日があいてしまったが「ひまわり」コンプリート。……完敗である。特に4周目→TIPS最終幕の流れが地味にツボに来た。
このゲーム、洒落っ気の効いたTYPE-MOONパロディが随所に散りばめてあったけど、最後のこの手法はパロディではなく堂々のオマージュと呼んでいい(というか俺が勝手に認識してるだけで普通そんなこと気づかないし作者も意図してないかも)。──そう、「最後のTIPS」こそは、如星が未だあらゆるゲームの中で「もっとも評価しているエンド」、月姫の「月蝕」である。マルチエンドという「まとめようの無い物語」に「全てをまとめる一つの帰結点」を提供するその手法に俺は惚れ込んだままなのだけど、「ひまわり」のそれもまた、「全てをまとめる」ことこそできずとも、「もう一つの帰結点」をちゃんと提供できている。
いやー、地味に凄いことだよ、これは。
何が凄いって、多分「3周目」を真エンドと捉えるならば、「4周目」は残ったヒロインの救済と背景世界の追加説明程度にしか扱われなくても不思議はないし、事実そう読む人もいるかもしれない。でも、4周目は実際キチンとした「エピローグ」であり、と同時に「円環構造の最後の環」として、一番最初の「少年は、宇宙を目指す」の物語に世界を還しているわけなのだ。後日談に近いキャラの心情を描きつつ、物語を最初に還す──それだけでも巧いなぁと思い、3周目よりは平穏な気持ちで4周目のコンプ気分を味わい、そして何気なく全ての「TIPS」を開いたときに語られる「最後のエンド」。
……これをホーキング風に表現するなら「人類の勝利」である。いや「ホーキング、宇宙を語る」を読んでないとさっぱり意味がわからんかもしれないけど、このTIPSエンドを以ってようやく、全ての登場人物が運命に勝利するのである。これを巧いと言わずしてなんと言おう。
久しぶりに、本当にいいゲームに出会えた。
大感動という程な感動はなかったし、別に涙もしない。君望時のような衝撃、SR時のような神域の技巧があったわけでもない。ただ、色んな面において物語の巧さを感じ、そしてその巧さの上で編み上げられたアクアとアリエスという二人の少女を、宇宙に狂った男たちを、一度死者となった少年を、心行くまで感じ取れた。この爽快な読後感は、何者にも変え難い。作者に対して「この物語をありがとう」と伝えたくなる、そんなゲームでした。あー真面目にレビュー書くぞー!
あー、一つだけ追記。最後の最後に出る「5年後」、次回予告だの何だのとまで捉える必要ないんじゃないかなぁ。なんかマブラヴの「アンリミ」ラストとかでも思ったけど、作り手としては(この「5年後」ですら)、これで物語は完結してると思うんですよ。でもそういう反応が巷に出るって事は、何か謎が残ったり、何か最後に仄めかしがあるのが「許せない」読者が多いってことなのかなぁ……。