VERBA VOLANT, SCRIPTA MANENT.
映画「ブラッド・ダイヤモンド」を観てきた。例によって前情報はあまり仕入れずに観に行ったのだが……いや、これは何と言えばいいのか。面白かった、大変良かった映画なのだが、そのストーリーの背景に描かれる余りに重い現実に打ちのめされる映画でもあった。如星個人としては誰もに観て欲しい映画なのだが、同時に受け手を選ぶ映画でもあり、勧めるのが難しい作品だったのだ。
本作は、紛争地域から密輸され紛争勢力の資金源となっている、いわゆる「紛争ダイヤモンド」に関する話だ。その中でもシエラレオネ──最貧国の一つであり、世界一寿命の短い国を舞台にしている。実は、如星はこの国に関して若干の予備知識があった。世界各国の紛争地域、停戦してなお困難な状況を現場の目から解説した、伊勢崎賢治「武装解除」を以前読んでおり、その一章がまさにシエラレオネ内戦を扱っていたのだ。故に、そこで「何が起きたか」については知識として知っていた。政府軍対ゲリラとすら呼べない、ゲリラ軍対ゲリラ軍としか言いようの無い無秩序の世界。大量の少年兵たちを巻き込んで野放図に広がり、当人たちすら詳細を把握できない「軍隊もどき」が国土中を跋扈する世界。それらの話が眼前で映像化されたとき、知識は改めて現実感を帯びた存在として強烈な衝撃を与えてきたのだ。
この作品に対する批判のひとつに「ご都合主義過ぎる」というモノがあるらしい。確かに、主人公たちの物語は数千に一つの奇跡の積み重ねによってのみ成し得る話ではあった。だがそれは映画としてのエンターテインメント性を求めた結果、物語として成立するために「万に一つの(最終的には)幸運な人々」を描いたというだけであり、この世界そのもの、主人公たちが放り込まれた事件そのものには、何らご都合的な作りを如星が感じる事は無かった。
そうだ。冒頭でいきなりなんでもない市民が両手首を切り落とされるのは事実だ。誘拐された十数歳の少年が徹底洗脳されて「分隊長」にすらなり、アメリカのブラックミュージックをBGMにAKを握り締め、戦闘員も何もいない村を虐殺して回るなんてのも事実だ。ダイヤモンドの露天掘り現場で原石を口に隠した労働者がその場で射殺されるのは一応事実だが、現実には生きたまま腹を捌いたりもしたという。傭兵企業が請負でそんな強制労働下の市民を反乱軍ごとふっとばして行くのも現実だ。……何という光景だろう。これを観ていると、国家軍隊同士の「戦争」は曲がりなりにも近代社会が経験から編み出した「プロトコル」の一つなんだというコトが分かる。そして「プロトコル」の無い「戦争」はここまで行き着くのかと。それが、この映画全体を貫く背景であり、主題であると言える。
さて。そんな重みを持つ背景とは別に、純粋に映画としての物語もなかなか楽しめた。アフリカ出身の白人を主人公に据えているのも面白いし、その設定がキチンと物語全体に生かされている。生き延びるために実地で限界まで成長した兵士の姿。反乱軍に息子を奪われ、やがて息子に銃を突きつけられる現地の一父親が、そんな超現実・利己主義者と同行する面白さ。そんな彼らも、官僚主義の国連支援活動の中を泳ぎ渡るには更にもう一人、アメリカ人ジャーナリストを巻き込まねばならない辺りも面白い。傭兵と現地民とジャーナリストが、それぞれ己の使いうるコネと知識を振るいながら展開されるストーリー。それは確かに「運」という面ではご都合的でも、その切り開き方は決してご都合ではないのだ。混沌の支配する世界での生き延び方という意味では、如星の好きな「シャドウラン」なんかの世界とも通じるところがあるし、傭兵としての身のこなしは半可軍事スキーの如星でもニヤリとする場面の連続だった。うーん面白い。
ちなみに全編を通じて際立って涙するようなシーンは(少なくとも自分にとっては)あまり無いのだが、唯一ラスト付近で主人公が「足元の赤い土、血の土を掌に取るシーン」にはグッと来た。それは前半で傭兵会社のボスに告げられた「アフリカから逃げない理由」に見事にループバックしており、如星の毎度のツボである「円環構造を取る物語」そのものだったからだ。いやいやストーリーテリングもなかなか巧いじゃあないですか。
というわけで、殺伐とした軍事描写を(指の間からでも)なんとか見られる人であれば、是非とも観て欲しい映画だ。「内戦紛争という秩序無き世界」の映像化は見事で、そんな存在を頭の片隅に放り込むだけでも価値はある。物語としても面白いし、そうそう、如星が嫌うかのディカプリオも今回は結構いい演技をしてるので、そっちの面でも見ておいて損は無い映画であった:)
あ、もちろん前述の「武装解除」は誰にでもお勧めできる名著なので、先にこっちを読んでおくのも手。シエラレオネ以外にも東ティモールやアフガンネタもあり、また「今時金を出す奴が偉いに決まってんだろ」という当たり前すぎて目から鱗の「日本の貢献」についても書かれてるので、是非ご一読を。
今日の一滴="−−−−" (2007/05/03)
久々にコミティアに行ってきた。前回は行きそびれたので実に半年振りである。ってまぁ1回しか空けていないのだけど……。それにしても、まー楽しかった:) 久々に同人買い手欲をばっちり満たしましたよ。11時〜15時の間カロリーメイトかじるだけで休むことなく島中を巡り、本を買うだけでなく、一次創作者たちのエネルギーを随所で吸収。面白い話作り、デザインを含めた高品質の本作りを追う人々と触れ合えるのはホント楽しいのよねー。
さて、今回は規模拡大開催(2ホール分)ということもあり、展示系サークルのスペースが多く取ってあった模様。まるで以前開催されたコミティアXのようで、中でも豆本サークルの島がどれもこれもディスプレイが凝りに凝っており、普段の同人誌欲とはまた別の、あの人類共通の感情ではないかとすら思える「ミニチュア萌え」を存分に堪能してきたのである:)
最初に見つけたのが左の写真のサークル「マタタビ蚤の市」。豆本中心ではなく、ファンタジーに登場する雑貨屋といった雰囲気。本当に巧いとしか言いようのないスペース作りで、子供の頃の憧れをそのまま具現化したような「小箱の宝物」が所狭しと並んでいる。残念ながら一番グッときた「ロシアの民族衣装豆本(写真左手の蛇腹本)」は早々に売り切れだったようで、超大陸本と古地図栞をゲット。なお帰宅して開けてみたら小さなアクアマリンがころりと入っていたり、本当に「この手の萌えツボ」を的確に突いてくるサークルさんであった。
右手の写真は「我楽多倶楽部」。こちらは見ての通りの完璧な豆本屋さんで、自宅図書室のメンテをするドールたち、といった風情が見事に演出されている。だが何より、本題の豆本の出来が何よりも素晴らしい。イラスト集、鉱石本、そしてなんと写真集。その全てが糸綴じによる手製本だそうで、その品質の高さと揃えの数にただただ感服するのみ。
ちなみにイタリアの地方都市イラスト本などもあり、店主の女性に聞いてみたところやはりイタリアスキーだそうで:) 散々悩んだ挙句、左の写真にあるヴェネツィア写真集を購入。いやもう小さいながら本当にしっかりと写真集で、世界最小のヴェネツィア本を名乗ってもいいんじゃなかろーか。実にラブリーなヴェネツィア蔵書が増えて嬉しい限り。
最後に見かけたのがミニチュア文房具サークル「蓮月堂」。やはり「普段見慣れた何か」がミニチュアになっているとミニ萌え度もあがるようで、長形封筒やらA4用紙やらが文房具店……というより、その、コピ本でお世話になるKinko'sの販売棚のように(笑)並ぶ様に眼を引かれたのだけど、ふとスペースの端にあった「原稿用紙とスクリーントーン」に気づいて思わず笑ってしまった。もちろん如星は漫画系ではないのでトーンを見慣れてるわけじゃないけど、このメタ視点的なオブジェを採用するセンスは最高である。いやー楽しい。思わずミニ封筒作成キットなど買ってしまった。決して手先が器用な方ではない如星だけど、手を動かすこと自体は嫌いじゃないしね。ちなみに写真奥にも映っているこの18mm長の封筒、ちゃんとフィルムパックの中に5枚ほどの開封可能な封筒が込められてるのだから驚き。
ちなみに本の方もティア袋1つを満杯にするぐらいには大補給。CLOCKWORK HEARTSや海底温泉さんなどリピータ購入の他に、意外と新規一見買いも多かった辺りが今日の意欲の表れだと思う。疲れてくると安心感のあるお馴染みさんばかりを回るようになってしまうのでね。後はあらゐよしひこ氏の新刊が相変わらず強烈な黒光りを放っており、もう氏の創作力には完全降伏あるのみ。またレビュー書きたいなぁ。……しかし体力がもう少し持ちこたえていれば、あと一袋は購入量が増えてたであろう辺りが恐ろしい。同行したぶどうさんやまりりそ君には「若いねえ」とか言われる始末だが……いやいや、これはもうイベント中だけ若返るスタンド能力だとしか思えませんね! 反動もすごいけど!orz
今日の一滴="−−−−" (2007/05/05)